■ 屋上屋を重ねる愚への蛮勇 ■
 YahooオークションにてOCXOを物色中、4MHzのOCXOの出物を見つけた。よく出ている10MHzのOCXOは5K円以上が相場であるが、コイツは4MHzと中途半端なためか、割とリーズナブル。太っ腹見せつけるようにして、即決価格にて1個ご購入。

 品物が届き、プチプチの梱包材から顔を出したのは、1991年製の
NDK製のOCXOである。その大きさが正確無比の無骨さを感じさせる。ただ、コイツ、電源と出力の両端子ともSMAコネクタとなっている。出力端子がSMAなのは分かるとして、電源がSMAというのはどういう使用目的のモノだったのかしらん。残念ながらメイカーのホームページを見ても、コイツの品番はヒットせず、仕様が皆目分からない。当たりの然で、供給電圧でさえ分からない。オークションでの説明では「+12V電源で正常動作を確認」とあった。最近の同社のOCXOは、殆どが+5Vと+3.3V動作が殆どで、ほんの僅かが+12V動作である。まぁ、当時の91年だとしたら+12Vが妥当だろうなぁ。早速、実験用電源で+12Vを入れてみる。20年経過しているがちゃんと発振してくれた。でも...、何か変? 発振周波数が変動し過ぎる。OCXOなのでオーブンが温まるまで変動するのは許せるとして、1時間経てもユウに数Hzは動いてしまう。まぁ、通常のXtal発振であれば、コレで許されるのだが、コイツはOCXOなのである。エージングが足りないのだろうか。...という訳で3日ほど様子をみたが、周波数は数Hzのドリフトを繰り返すのみ。ギョヘェーッ、トンでもないのを掴まされたのかしらん。

 そういやぁ、OCXOなのにオーブンに触った温度の感覚が
妙にナマ暖かい。アッチッチィー、という温度ではないにしても、もう少し暖かくてもヨサゲなんだが...。ここでイヤな予感、「もしかしてオーブン関連が壊れているのかも」。コイツは20個位のビスでケーシングされている。こういうキッチリしたモノをご開帳するには蛮勇が必須。ダメモトとの意を決して、ビスを外していきます。金属ケースを開けると、白い断熱材で覆われた基板・オーブンが現れてきた。う〜ん、回路や組立てはオーソドックスな雰囲気である。剥き出しのオーブンに触れてみると、シッカリ暖かい。う〜ん、「オーブンが壊れている」ってことはなさそう。そうなると、さらにコトはヤッカイである。

 仕様が分からない位である、当然に回路図は無い。とりあえず回路図をリバース・エンジニアで起してみよう。その上で、イロイロ検討してみて故障箇所を特定し、ドリフトの少ない発信器としよう。...で、いろいろとパーツを見ている内に、電源回路と思しきブロックで
78L15の3端子レギュレータが3本足で立っている(うそ、実際には寝ている Hi)のを発見。なぁ〜んと、電源は+12Vという先入観で決め打ちしていたが、+15V以上である。多分、+18Vだろうと当たりを付け、+18Vを供給してみます。
3本足の78L15が寝ていた!
内部断熱材を外したOCXO
 すると、どうだぁ。オーブンはシッカリ暖かくなり、どうにもヨサゲな雰囲気である。ルビジウムの10MHzで正確無比となったカウンタで測ってもドリフトは僅かである。1時間程度経過した位では、10mHz/Hourのドリフトであったが、24時間経過すると3mHz/Hourとなった。気を良くして1W経過後のデータを取ってみると、何と1mHz以下/Hourと素晴らしい性能を示してくれた。但し、ドリフトが1mHz以下/Hourなのであって、偏差はというと、4.000000MHzから0.9Hzほどズレている。違う見方をすると、製造から20年経ても0.9Hzしかズレていないとうスグレモノである。単純計算すると、経年変化は0.01PPM/年程である。年に1回較正すれば素晴らしい基準発振器となってくれる。
ゼロの数を数えて欲しい、1mHz台までゼロ
  さぁてとぉ、ココで本題に戻ります。何故に4MHzのOCXOかということ。実はルビジウムの10MHzによりPLLをかけて、IC−7400に超高精度の32.00000000MHzを供給しているのだが、コイツが壊れたらドウスベイと杞憂の念が生じてしまったのである。ルビジウム10MHz自体が、かなり複雑な回路であり、経年劣化を考えると、今後故障する確率は高い。イザという時のために予備の機器が必要と判断したのである。で、4MHzの8倍で高精度な32MHzが簡単に得られないか、と考えた。とりあえず4MHzの高精度のOSCが手に入った。これから、4MHz→32MHzを取り出す回路を製作するだけである。

 4MHzの高調波を利用して、単純に32MHzを取り出しても良いのだが、少しでもスプリアスを減らしたい。ので、以前にSDRで使用したことのあるPLLで逓倍するIC(ICS512M)を今回も使ってみるコトにした。コイツは最高8倍まで逓倍でき、200MHzまでカバーしてくれる優れモノである。難点は、コイツを扱っているパーツ屋が少ないコトである。今住んでいるのは飛騨の山ん中なので、このために秋葉原まで長駆して出掛ける訳にはいかない。通販に頼らざるを得ないが、ICS512Mを扱っている秋葉の安い店は通販はしていない。少々高いが何でも揃うサトー電気で買うことにしよう。

 で、ローカルのOM依頼の通販分もマトめ、ネットでサトー電気に注文した。1Wほどで頼んだパーツが届いた。よくよく考えたら、横浜に住んでいた時に、よく秋葉へ行って購入していた時の横浜・戸塚→秋葉原の往復JR賃より送料の方がかなり安い。実物を見て買えない・スグに入手できない、この2点をガマンすれば安いし、あちこちウロウロすることなしに買い物ができる。

 4MHzの出力をイキナリICS512Mに入れても良いのだが、どうせ74AC04でバッファするのである。一旦74AC04に入れ、リミタ効果の小信号抑圧で不要波を6dB改善させてから512Mに入れるコトにした。そして512Mの出力を再びAC04に入れ、3パラINVでバッファーして出力させた。問題は、512MがハーフピッチのICでチッチェ〜こと。普通のピッチに変換する基板をいれるのもカサバルだけである。ここはズボラをして空中配線とした。でも接続用のスズメッキ線が細くなるものだから、メッキ線にうまく半田が乗ってくれない。何度かトライしている内に、どうにかサマになってくれた。で、電源をONしてイキナリ動作確認。結構、32MHz以外のU波は少ない。これには正直驚きである。でも32MHz近傍に汚いスペクトルがいくつも残っている。これを除去するには、以前に製作したことのある32MHzクリスタルフィルタの登場である。
DIP-ICの背中で空中配線 結構キレイなスペクトラム
 3倍オーバートーンでも立派なXtalフィルタになるのは経験済み。今回もLCによる多段のBPFをヤメて、前回と同じ2石のXtalフィルタ+FETの1石AMPを基板に組み込みます。まぁ、簡単な回路というコトでチェックもせずに電源ON。スペアナで特性を見るが、期待した32MHzだけのスペクトルにはなっているが、−40dBmほどとエラく低いレベルである。損失がー40dBほどである。「オンヤァ〜、おかしい?」イクラなんでも低過ぎる。回路を間違えたかしらん。

で、ココでチェックを入れる(
ヲイヲイ、順序が逆だってばぁ)。でも・しかし・But、簡単な回路である、間違えようがないではないか。何回もチェックしても問題なし。となると、Xtalフィルタの中心周波数が32MHzから大きく外れているのかも。こういう時のために、せっかく製作したFRMS−2がある。これで周波数特性を測定してみよう。コレを引っ張り出そうとした時、ナニゲに基板の上から水晶を見ると、2石の水晶の品番表示文字が逆になっている。水晶っていうのは、回路図のシンボルからは極性が無いように見えるが、等価回路では左右対称ではないような、....。で、2石の水晶の一個を飛ばして、1石Xtalフィルタの通過ロスを測ってみると−3dB程である。どうやら、極性がテレコになっているのが原因のようである。急いで片側の水晶の半田付けを外し、もう片方の水晶と同じ向きにして半田付けをします。この状態でロスを測ると、−6dB程である。う〜ん、大丈夫である。こういう単純ミスをするのがHYDらしい。後から理論が付いてくる。まぁ、こういう紆余曲折が自作の面白さでもある(と、負け惜しみ 苦Hi)。FETの1石AMPの出力では+6dBmほどと若干低いが、ICー7400に供給するとスンナリ動作してくれた。ATTを入れて徐々にレベルを落としていくと、6dBを入れた状態から動作がオカシくなる。ということは、6dBの余裕があることになる。10dBは欲しいトコロだが、予備の機器だからココで手を打とう。経年劣化でレベルが下がったら、その時にでもAMPを追加するコトにしよう。
  後はジャンク箱に眠っていたケースに収容すればOKの筈だったんだが、最後に落とし穴が。通販で注文する際、電源用のトランスを注文すれば良かったのに、ジャンク箱に9V×2−0.2Aのトランスが眠っていたので、これを利活用することにした。実験用電源で+18Vで電源ONから20分ほど後までは、消費電流が0.18Aで、その後は0.13Aと確認していた。このためトランスのレギュレーションを考えるとギリギリかなぁ、とは考えた。でも熱の方はどうオーブンと同居するのだし、またリプルが出るほどではないだろうと考えていた。でも・しかし・But(くどい、ってば)、LM317Tで+18Vを取り出したが、50mVp-pほどのリプルが出てしまった。AC100Vのレギュレーションが良い時は1mV以下なのだが、悪い時には上記の値となる。まぁ、内部に15Vの3端子レギュレータがあるのだから、問題視しなくても全く問題ないのだが、何かの忘れ物をしたような気持ちになってしまった。このため、ドンドンと電解コンデンサを追加していくハメに。@これ以上パラにしても効果が少ないだろう Aこれ以上パラにするとケースに収容できない というところで、手を打った。

 OCXOをプチプチで被って、さらに断熱し、十分にエージングを済ませて「
完成でーぇっす堺 正明チュウボー風に)」。
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実は予備機のツモリで製作したのだが、現在はルビジウムの方を予備にして、こちらをメインとしています。今回も諸事情で回路図は掲載しません。興味のある方は、HYDまでメール下さいナ。